Google Voice for Google Workspace の Premier プランには、通話アクティビティを BigQuery で高度分析する機能が含まれています。この記事では、Voice を全社展開済みの情シス担当者を対象に、ライセンスコストと実利用の乖離を可視化し、不正利用を早期に検知するためのポリシー設計を整理します。
この記事を読んだほうが良い人
- Google Voice を全社で展開しており、通話コストの内訳を経営に説明できていない情シス担当者
- Voice のライセンス数と実際の利用者数が乖離している可能性があり、棚卸しを実施したい担当者
- 不正な外線通話や深夜通話の疑いはあるが、検知の仕組みをまだ持っていない担当者
Google Voice のコスト構造:ライセンスと実利用のギャップ
Google Voice for Google Workspace には Starter・Standard・Premier の 3 プランがあります。Google の公式製品ページに掲載されている参考価格(米国基準)はそれぞれ 1 ユーザーあたり月額 $10・$20・$30 で、日本での実際の請求額は別途 Google の料金ページで確認が必要です。
コスト管理が難しい根本的な理由は、ライセンス保有数と実利用者数のズレにあります。入社・退職・異動のたびにライセンスが放置されやすく、特に組織再編のタイミングで「以前付与したまま誰も使っていない」状態が発生します。
加えて、外線通話料金はライセンス月額とは別建てになるプランがあり(国際通話のコスト構造はプランや接続先の国によって異なります)、ライセンス費用だけを見ていると実際の通話コストを過小評価するリスクがあります。
経営から「Google Voice はコスト効率がよいか」と問われたとき、ライセンス費用と通話量の両面を数字で示せる体制を作ることがゴールです。
利用データの取得経路:ログイベントと BigQuery の使い分け
Voice の利用データには主に 2 つの取得経路があります。それぞれの特性を理解してから設計方針を決めることが重要です。
管理コンソールのログイベント(Reports API)
管理コンソールの「監査と調査」から参照できる Google Voice ログイベントには、個別の通話単位で次のデータが含まれます。
- 通話日時(ブラウザのタイムゾーンで表示)
- 通話時間(ミリ秒単位)
- 通話コスト
- 発信元・着信先の電話番号
- 通話を行ったユーザーのメールアドレスと組織部門(OU)
このデータは Admin SDK の Reports API 経由でプログラム的に取得できます。GAS(Google Apps Script)を使えば定期集計を自動化し、スプレッドシートで月次コストレポートを運用することも可能です。
確認には「監査と調査」または「セキュリティセンター」の管理者権限が必要で、データの保持期間は Activity ログとして 180 日が目安です。
BigQuery による高度レポート(プランに依存)
より本格的な分析基盤を構築する場合は BigQuery が有力です。
Voice Premier プランの BigQuery 連携機能:Premier プランでは通話アクティビティの高度なレポートを BigQuery で実行できます。大量の通話データを SQL で柔軟に集計・可視化でき、Looker Studio などのダッシュボードと接続することで継続的なモニタリング基盤を構築できます。
Premier プラン以外の環境で詳細な分析を行いたい場合は、Reports API でデータを定期取得して BigQuery に書き込む処理を自前で実装する方法が現実的な選択肢です。GAS や Cloud Functions などを組み合わせて、取得 → 整形 → BigQuery 書き込みのパイプラインを組むイメージです。
コスト可視化の指標設計
分析基盤が整ったら、次に「何を見るか」の指標を定義します。以下の 3 軸が実務で使いやすいです。
① ライセンス利用率
月に 1 度以上通話したユーザーの数を、Voice ライセンス割当数で割った値です。この比率が 80% を下回る状態が続いているなら、棚卸しを検討する目安になります(数値はあくまで参考値で、組織の業務実態に合わせて調整してください)。
② ユーザー別月次通話コスト
ユーザーごとに月間の通話時間合計とコスト合計を集計し、ランキングで上位を可視化します。ここで重要なのが、ライセンス月額単価に対して通話量が釣り合っているかを確認する視点です。
たとえば Premier プランを付与しているユーザーが月間の通話がほぼゼロであれば、Standard や Starter への切り替えを検討する根拠になります。BigQuery や集計スプレッドシート上で「月間通話時間が 0 分のユーザー一覧」を定期出力するクエリを用意しておくと、棚卸しの起点として機能します。
③ 外線単価の異常検出
国内通話と国際通話が混在している組織では、通話コスト ÷ 通話分数で算出した単価を比較します。組織全体の平均単価から大きく外れているユーザーがいる場合、国際番号への発信が多い可能性があります。通常業務に照らして妥当かを確認するフラグとして使います。
不正利用・異常通話の検知設計
「不正利用」とは、組織の通話ポリシーから逸脱した使用パターンを指します。自動検知の仕組みを作るには、まずしきい値の設計が必要です。
外線通話量のしきい値
1 ユーザーが 1 日あたりに行う外線通話量の上限を OU ごとに設定し、超過したユーザーを一覧化します。コールセンターや外勤営業などは通話量が多くて当然なので、役割ごとにしきい値を分けることが重要です。
| OU の役割区分 | 1 日の外線通話量しきい値(例) |
|---|---|
| 一般スタッフ | 60 分超でフラグ |
| 営業・顧客対応 | 240 分超でフラグ |
| 管理職・情シス | 120 分超でフラグ |
しきい値はあくまで「確認対象に上げる基準」です。超過 = 不正ではなく、業務実態と照らし合わせて判断するプロセスをセットで設計してください。
業務時間外の通話検知
Voice ログイベントには通話日時が含まれているため、業務時間外(例:22:00〜08:00)の外線通話をフィルタして集計できます。週に複数回、深夜帯に外線通話が発生しているユーザーがいる場合、転送設定の誤りや意図しない利用の可能性があります。
Google Voice の通話転送機能は、設定を誤ると外部番号に通話が転送され続ける状態になることがあります。業務時間外通話の定期レポートは、こうしたミス設定の早期発見にも役立ちます。
特定番号への集中発信
短期間に同一の外線番号への発信が繰り返されるパターンは、通常業務では発生しにくい挙動です。発信先電話番号のランキングを月次で取得しておくと、異常パターンを把握できます。既知の取引先以外への高頻度発信が確認された場合は、当該ユーザーへのヒアリングを行う運用フローを設けておくことを推奨します。
ライセンス最適化:棚卸しフロー
コスト最適化の実行フローとして、四半期に一度の棚卸しを定例化することを推奨します。
Step 1:ゼロ利用ユーザーの抽出
過去 90 日間、一度も通話・テキスト送受信をしていないユーザーを一覧化します。90 日というスパンは、長期休暇や一時的な業務変更を除外するための目安です。30 日での抽出は取りこぼしが増えるため、短すぎる期間設定には注意が必要です。
Step 2:所属部門への確認
抽出されたユーザーについて、所属部門のマネージャーに業務上の必要性を確認します。「育休中で近く復帰する」「固定電話で代替している」「異動後に不要になった」など、実態はさまざまです。ここで判断せずに機械的に解除すると業務影響が出るケースがあるため、確認のプロセスは省略しないことが重要です。
Step 3:ライセンス解除またはプランダウングレード
不要と判断されたユーザーのライセンスを解除します。また、Premier プランを割り当てているが BigQuery 機能を一切使っていないユーザーは、Standard または Starter へのダウングレードも検討します。
Step 4:解除後の業務影響確認と次回スケジュール
ライセンス解除後 2 週間ほどは業務影響がないかを確認し、問題なければ次回の棚卸しを 3 か月後のタスクとして登録します。棚卸しを属人的なタスクにせず、定例 IT レビューのアジェンダに組み込むことで継続できます。
できないこと・注意すべき制限事項
自動通話録音は Premier プランのみ
通話録音のオンデマンド録音(ユーザーが手動で録音開始)は Starter プラン以上で利用できます。自動録音は Premier プランの機能です。録音データを使ったコンプライアンス監査や証跡保全が目的の場合は、プランのグレードを確認した上で導入を検討してください。
過去データの遡及に限界がある
Reports API 経由でアクセスできる Voice ログイベントの保持期間は Activity データとして 180 日が目安です。仕組みの整備を後回しにすると、それ以前のデータは取得できなくなります。分析基盤を構築すると決めたら、BigQuery 連携(Premier プラン)またはデータの定期取得を早めに開始することが重要です。
通話先番号のマスクについて
設定やプランによっては、ログに表示される発信先番号が部分的にマスクされるケースがあります。プライバシーポリシーや社内規程に基づく通話先情報の取り扱い方針を先に定めておく必要があります。分析要件と番号マスク設定のトレードオフは、法務・コンプライアンス部門と確認した上で判断してください。
経営への説明責任を果たすために
Google Voice のコスト管理で最初にすべきことは「利用状況の可視化」であり、ツールより先にモニタリングする指標としきい値を決めることです。
Reports API から取得できる Voice ログイベントには通話時間・コスト・発着信情報・OU が含まれており、GAS での定期集計だけでも月次コスト把握と異常フラグの運用は始められます。BigQuery を使った高度分析は Premier プランが必要になりますが、それなしでも「ゼロ利用ユーザーを 3 か月に一度棚卸しする」「業務時間外の外線通話を週次で確認する」という小さな仕組みから着手できます。
コスト最適化は一度やれば終わりではなく、組織の変化に合わせて定期的に見直す継続的な運用です。経営から「Google Voice のコスト対効果はどうか」と問われたとき、データで答えられる体制を今から少しずつ整えておくことが、情シス担当者としての説明責任を果たすことにつながります。
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