AUTOMATION NOTE — 197

GAS 定期実行と Sheets ネイティブの使い分け:情シス月次タスク判断ガイド

2026年6月23日、Google Apps Script (GAS) が Google Workspace のコアサービスとして正式に位置づけられ、エンタープライズ向けのデータ保護・管理制御が強化されました。 この記事では、GAS を活かしながら、Google Sheets のネイティブ機能や Workspace Studio で代替できる月次タスクを情シス担当者向けに整理します。

この記事を読んだほうが良い人

  • GAS で月次ユーザー棚卸しやライセンス集計を定期実行している情シス担当者
  • Named Functions(名前付き関数)や Workspace Studio が GAS の定期実行を代替できるか判断したい方
  • 社内の GAS スクリプトを整理しつつ、業務を止めずに運用を続けたい 100 名規模の IT 担当者

Named Functions は「定期実行の代替」ではない

まず、Google Sheets の Named Functions(名前付き関数)の役割について確認しておきます。これを混同したまま設計すると、判断の方向がずれます。

Named Functions とは、LAMBDA 構文を使って自作した計算ロジックに名前を付け、シート上の通常の関数と同じように呼び出せる機能です。たとえば「CALC_LICENSE_COUNT(部門, 範囲)」という名前を定義すれば、複雑な集計式を複数シートで再利用できます。ARRAYFORMULA と組み合わせると数百行のデータを一括処理する計算式も整理しやすくなり、スプレッドシートの保守性が上がります。

しかし、Named Functions が担えるのは「計算式の定義と再利用」だけです。式の評価はセルが参照されたタイミングで行われるため、「時刻を指定して処理を起動する」という仕組みとは根本的に異なります。外部サービスへのリクエスト送信、Admin SDK(Google が提供する Workspace 管理用 API 群)の呼び出し、メール送信などは構造上できません。

GAS には、別途「カスタム関数」(Custom Functions)という仕組みもあります。こちらは GAS のコードをシート上の数式として呼び出せる機能ですが、公式ドキュメントで制限事項として明記されている通り、外部サービスへのアクセスや Admin SDK の呼び出しには対応していません。Named Functions と GAS カスタム関数を混同しているケースがありますが、どちらも定期実行の代替にはなりません。

「Named Functions で GAS の定期実行を代替できるか」という問いへの答えはノーです。 定期実行(時間ベーストリガー)は引き続き GAS の担当領域です。この前提を押さえた上で、次の分類を見ていきます。

月次 IT タスクを 3 分類する早見表

情シスが GAS で回している月次タスクは、代替可能性によって 3 種類に分けられます。判断の起点として以下の表を使ってください。

分類 代替手段 月次タスクの例
Sheets ネイティブ対応可 Named Functions / QUERY / IMPORTRANGE 等 ライセンス種別ごとの人数集計、固定フォーマット集計
Workspace Studio 対応 Workspace Studio(ノーコードワークフロービルダー) フォーム申請の承認フロー、条件分岐通知
GAS 必須継続 GAS の時間ベーストリガー + Admin SDK 月次ユーザー棚卸し、定時メール送信、差分アラート

それぞれの特性と注意点を以下で説明します。

Sheets ネイティブで賄えるタスクとその限界

次のタスクは、GAS を使わず Sheets の標準機能で完結させられます。

ライセンス数の集計が代表的なケースです。社員リストとライセンス種別の列があれば、COUNTIFS 関数だけで月次の集計が作れます。Named Functions で計算ロジックを名前付きで定義すれば標準化でき、シートのデータが更新されるたびに結果も自動で変わります。

より高度な集計には QUERY 関数が有効です。SQL に近い構文でシート内のデータをフィルタリングでき、「Business Starter の有効ユーザーのみ抽出して部門別に集計する」という処理を関数だけで実現できます。IMPORTRANGE と QUERY を組み合わせると、異なるスプレッドシートからデータを引き込んで集計するパターンも作れます。管理部門が別シートで管理している組織情報と、情シスが管理するライセンス情報を横断して集計したい場合に有効な設計です。

ただし、限界があります。まず「いつ計算するか」を制御できません。Sheets のネイティブ関数はシートを開いたタイミング、または参照先のデータが更新されたタイミングで再計算されます。「毎月 1 日の朝 9 時に集計して担当者に届ける」という処理は、Sheets ネイティブだけでは実現できません。

さらに、Sheets のネイティブ関数は Google Workspace の管理データ(ユーザー一覧、ライセンス状況、ログインアクティビティ等)を直接参照できません。こうした情報は Admin SDK 経由でのみ取得できるため、管理データを扱う集計はすべて GAS の担当領域になります。「Sheets だけで完結する集計かどうか」が、移行の可否を判断する最初の分岐点です。

Workspace Studio が向いているタスクと注意点

Workspace Studio は Google Workspace に内包されているノーコードのワークフロービルダーで、コードを書かずに承認フローや通知ルーティングを組めます。

Workspace Studio では「トリガー → 条件分岐 → アクション」の構造でワークフローを定義します。トリガーとして利用できるのは Google フォームの回答やスプレッドシートの更新などのイベントです。アクションとしては Gmail でのメール送信、Google Chat への通知、スプレッドシートの行追加などが使えます。

情シスの月次タスクで適性があるのは、イベント(フォーム回答・申請)を起点に動く処理です。

  • ユーザーからのオンボーディング申請を受けて承認者にメールを送る
  • ライセンス申請フォームの回答内容に応じて担当チームを振り分けて通知する

Workspace Studio のメリットは、GAS のコードを書かなくてよい点と、非エンジニアのメンバーでもフロー図を見ながら内容を確認・修正できる点です。情シス担当者がスクリプトを直接メンテナンスしなくてよい分、引き継ぎや運用コストを下げやすい面があります。

一方、Admin SDK への直接アクセスや、複雑な条件分岐・ループ処理には対応していません(2026 年 6 月時点)。月次ユーザー棚卸しのように「Admin SDK でユーザーリストを取得して前月と差分比較する」処理は、依然として GAS が必要です。

Workspace Studio と GAS は対立する関係ではありません。「入口の申請受付と通知は Workspace Studio、バックエンドの集計・比較処理は GAS」という役割分担が、現実的な設計の出発点になります。

GAS 定期実行が引き続き必要なタスク

以下のタスクは、現時点では GAS 以外の選択肢がありません。

月次ユーザー棚卸し については、Admin SDK の Directory API(組織のユーザー情報を管理するための API)を使ってユーザーリストを取得し、前月との差分を比較するスクリプトが必要です。時間ベーストリガーで毎月 1 日に実行し、結果を Sheets に書き込む構成が基本になります。

ここで重要なのが、GAS の時間ベーストリガーです。「毎日 8 時に実行」「毎週月曜日に実行」「毎月 1 日に実行」のようなスケジュールをコードとは別に設定でき、トリガー管理は GAS プロジェクトの設定から行います。このスケジュール実行の仕組みは Sheets ネイティブや Workspace Studio には存在せず、GAS の中核的な機能の一つです。

定期メール・Slack 通知 は、GAS から Gmail API または Slack の Incoming Webhook を呼び出すことで実装します。スケジュール送信そのものが GAS の時間ベーストリガーに依存しているため、代替できません。

セキュリティアラートの定期収集 も同様です。管理コンソールのアラートセンターのデータを Admin SDK 経由で取得してスプレッドシートに積み上げ、前月と差分があれば Slack に通知する仕組みも、GAS で時間ベーストリガーと組み合わせて実装できます。月次の監査資料として、こうした集計を定期的に自動保存している情シスは多いです。

2026 年 6 月の発表により、GAS はエンタープライズ向けのデータ保護と管理制御の対象となり、管理コンソールからの ON/OFF 制御も整備されています。GAS を「将来的に廃止すべき技術的負債」として扱うより、「適切な場所に使い続ける自動化手段」として位置づける判断が合理的です。

既存 GAS スクリプトの棚卸しをどう進めるか

新たな代替手段を導入する前に、社内の GAS スクリプト資産の現状を把握する必要があります。整理の入口として、既存スクリプトを次の 4 つの観点で分類するところから始めてください。

① 時間ベーストリガーを使っているか。 使っていないスクリプト(フォーム送信や手動実行だけのもの)は Workspace Studio の移行候補です。定期実行しているスクリプトは GAS で維持する必要があります。

② Admin SDK や外部 API を呼び出しているか。 呼び出しているスクリプトは GAS 専用です。Sheets ネイティブや Workspace Studio では代替できません。

③ 読み書きするデータが Google Sheets の中だけか。 そうであれば、Sheets ネイティブの QUERY や IMPORTRANGE で代替できないか検討する余地があります。特に「集計結果を確認するだけで、外部への通知を伴わない」スクリプトは移行候補になります。

④ 誰がメンテナンスしているか。 作成者が退職・異動していて誰もメンテナンスできないスクリプトは、Workspace Studio への移行を優先すると属人化を解消できます。

この 4 つの問いに答えるだけで、スクリプトを「Sheets ネイティブ移行候補 / Workspace Studio 移行候補 / GAS 維持」の 3 群に振り分けられます。全部を一気に移行しようとせず、「止まっても業務への影響が小さいスクリプト」から整理を始めると、リスクを抑えながら前進できます。

月次タスクの設計判断フロー

月次タスクをどの手段で動かすかは、次の順序で考えると判断しやすくなります。

まず、そのタスクが「計算式の結果を参照したいだけ」なら Sheets ネイティブで完結できます。 Named Functions や QUERY で式を整備して、シートを開いたときに最新の集計結果が出る構成を取ります。手動で確認する月次レポートであれば、この構成で十分なケースが多いです。

次に、フォームや申請など「イベント(誰かがアクションした)を起点に動く処理」なら Workspace Studio が向いています。 承認フローや担当者への振り分け通知など、シンプルな条件分岐は Workspace Studio の得意領域です。

そして、「時刻を指定して定期実行したい」「Admin SDK を呼び出す必要がある」「エラーハンドリングを含む複雑な処理が必要」という場合は GAS が適切です。

迷うのは「定期的に集計してメールで送りたい」という要件です。「集計」の部分は Sheets ネイティブで対応できても、「定期的にメールで送る」部分は GAS が必要です。この場合は「集計ロジックは Sheets ネイティブで整備し、メール送信だけ GAS が行う」という分割設計が保守性を上げます。責務を小さく分けておくと、どちらかを改修する際の影響範囲を絞れます。

なお、Claude Code Routines(Anthropic が 2026 年 4 月にリサーチプレビューとして公開したスケジュール実行機能。挙動・制限は変更される可能性があります)も選択肢の一つです。自然言語でタスクを定義してスケジュール実行できるため、Claude Code を利用しているエンジニアが GAS の代わりにスケジュール実行を組み込む場面に向いています。利用には Claude Code サブスクリプションと開発者スキルが必要なため、情シス単独での運用可否はエンジニアリングリソースの有無を先に確認してください。また Anthropic のサービスを組み合わせることになるため、社内の AI ツール利用ポリシーとの整合も事前に確認してください。

おわりに

Named Functions は計算式の再利用に使う機能であり、定期実行の代替にはなりません。この前提を押さえておかないと、「Sheets ネイティブに移行しよう」という判断が誤った方向に進みます。

月次 IT タスクの整理は、Sheets ネイティブ(集計式の更新)→ Workspace Studio(イベントトリガー)→ GAS(定期実行・Admin SDK)の順で適性を確認し、GAS を本当に必要な処理に絞る設計が保守コストを下げます。GAS を全廃する必要はなく、「どのタスクを継続してどれを整理するか」を一本ずつ確認するところから始めると、過剰な移行作業を避けながら前進できます。

2026 年 6 月の発表で GAS がコアサービスに昇格したことは、少なくとも中期的には GAS が廃止される方向にないことを示しています。既存の GAS 資産を一律に「負債」として扱うのではなく、管理体制と代替手段を整理しながら、適切な場所で使い続けることが現実的な選択です。

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